朗 詠

<平 調>

嘉 辰(かしん) 謝偃

かしんれいげつかんぶきょく ばんせいせんしゅうらくびよう

 嘉辰令月歓無極  万歳千秋楽未央

「良き時節にあって、喜び極まりなく千年万年を祝っても、その楽しみは尽きることがない」

 

徳 是(とくはこれ) 大江朝綱

       ほくしん  ちんよう

 徳はこれ北辰  椿葉の影 再び改まり

 そん    なんめん  しょうか    とかえり

 尊はなほ南面  松花の色 十廻

「椿葉は八千年に一度改まり、松花は千年に一度花をつける」

天皇の徳を讃え、千万年の長寿を祈る祝賀の句。

 

東 岸(とうがん) 慶滋保胤

 とうがんせいがん    ちそく

 東岸西岸の柳  遅速 同じからず

 なんしほくし      かいらく すで

 南枝北枝の梅  開落 巳に異なり

「東から芽ぐむ春の柳、南枝から咲く大庚嶺の梅」

春の到来を寿ぐ曲。

 

池 冷(いけすずし) 源 英明

   すず        みずさんぷく

 池冷しくては  水三伏の夏なし

             かぜいっせい

 松高くしては  風一声の秋あり

「池の水は涼しく三伏の夏も忘れる、そして松の風が秋を運んでくれる」

池のほとりで避暑するさまを詠んだ曲。

 

暁梁王(あかつきりょうおう) 白賦

       その  い    ゆきぐんざん み

 暁梁王の苑に入れば 雪群山に満てり

 よるゆこう ろう       つきせんり あき

 夜庚公が楼に登れば 月千里に明らかなり

「梁の孝王の兎園から山々の雪を望み、庚亮が南楼に登って月を賞翫した(故事)」

雪と月の白をモチーフにした冬の曲。

 

 

<壹越調>

紅 葉(こうよう) 源 道済

 こうよう  こうよう れんぽう  せんしん

 紅葉また紅葉 連峰の嵐浅深

 ろか     ろか  しゃがん  えんきん

 蘆花また蘆花 斜岸の雪遠近

初冬、紅葉と雪のように白い蘆花を詠んだ曲。

 

春 過(はるすぎ) 菅原文時

 はるす  なつたけ  えんしと    ゆきみちたっ

 春過ぎ夏闌ぬ 袁司徒が家の雪路達しぬらし

         ゆうべ    ていたいい たに かぜひと

 朝には南 暮には北 鄭大尉が渓の風人に知られたり

後漢の袁安(雪に埋もれて暮らした)が鄭弘(薪を取りに行って仙人に出会った)の逸話を引いて、野に遺賢のあることを示唆した曲。

(菅原文時が源雅信に贈った詩で、源家根本七首のうちの一首)

 

二 星(じせい) 小野美材

 じせい       あ    いま べっしょいい  うら   の

 二星たまたま逢へり 未だ別緒依々の恨みを叙べざるに

 ごや      あ         しき りょうふうさつさつ

 五夜まさに明けなんとす 頻りに涼風颯々の声に驚く

平家物語、徳大寺実定と待宵小待従の対面に引かれる句。

 

新 豊(しんぼう) 公乗億

 しんぽう        おうむはい      せいれい

 新豊の酒の色は 鸚鵡盃のうちに清冷たり

 ちょうらく       ほうおうかん   ゆうえつ

 長楽の歌の声は 鳳凰管の裏に幽咽す

牽牛と出会う織女の短い逢瀬の切なさを描いた句。

(藤原宗忠、藤原長忠により歌い伝えられた曲)


松 根(しょうこん) 尊敬

しょうこん よ     す         みどりて み

 松根に倚て腰を摩れば 千年の翠手に満てり

 ばいか  お こうべ さしはさ  じげつ ゆきごろも お

 梅花を折て頭に挿めば 二月の雪衣に落つ

正月の初子の日には、常盤の松に触れて腰を撫でて、健康を祈る風習があった。

菅原道真ゆかりの歌。

 

 

<盤渉調>

九 夏(きゅうか) 源 順

きゅうかさんぷく しょげつ  たけさくご

 九夏三伏の暑月に 竹錯午の風を含み

 げんとうそせつ かんちょう まつくんし   あらわ

 玄冬素雪の寒朝に 松君子の徳を彰す

暑熱の夏の竹および厳冬の冬の松の清々しいさまを描いた句。(源融宅「河原院」の風景)

 

一 声(いっせい)  連昌宮賦

 いっせい ほうかん  あきしんれい

 一声の鳳管は 秋秦嶺の雲を驚かす

 すうはく げいしょう あかつきこうざん

 数拍の霓裳は 暁猴山の月を送る

笙詠。笙の音色は、雲を響かし、霓裳羽衣の舞人の舞が夜明けまで観客を魅了するという意味。

 

泰 山(たいざん)

 たいざん どじょう ゆず  かるがゆえ

 泰山は土壌を譲らず 故によく其の高きことを成す

 かかい さいりゅう いと  かるがゆえ

 河海は細流を厭はず 故によく其の深きことを成す

泰山や黄河・東海が大きくなったのは、些細なものをそのまま受け入れたことによるとして、度量の肝心さを説く。(「塵も積もれば山となる」のことわざと同意)

 

花上苑(はなじょうえん) 閑賦

 はなじょうえん       けいけんきゅうはくちり は

 花上苑は明らかなり 軽軒九陌の塵に馳せ

 さるこうさん    しゃげつせんがん みち みが

 猿空山に叫び 斜月千巌の路を瑩く

上苑は漢の武帝が長安に作った上林苑のことで、花見客の車が濛々たる砂塵をあげているさまが描かれ、下句には一転して、猿の叫ぶ秋の物寂しい様子が対照的に配されている。



十 方(じゅっぽう) 慶滋保胤

 じゅぽうぶつど       さいほう

 十方仏土の中には 西方を以て望みとす

 くほんれんだい       げぼん いうと た

 九品蓮台の間には 下品と雖も足んぬべし

栄華物語。極楽寺建立願文の一節。